『佐々木とピーちゃん』1巻(MF文庫J)を読みおえた。この記事は結末までのネタバレあり。全5章のあらすじ、巻末のあとがき、俺なりの考察と感想をまとめた。
40歳手前の平社員が、おしゃべりな文鳥とであって、異世界での商売と、国の異能管理組織の仕事を、かけもちしていく話だ。さきに結論を置く。この巻のおもしろさは、バトルの派手さより、お金と段取りの手ざわりにある。
まず本を手もとに置いて読みたい人へ。1巻は328ページあり、カントクの口絵と挿絵がそろう。かう前に版や価格をたしかめるなら、商品ページが早い。Amazonで『佐々木とピーちゃん』1巻を見る
『佐々木とピーちゃん』1巻の基本情報と公式ページ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 佐々木とピーちゃん 異世界でスローライフを楽しもうとしたら、現代で異能バトルに巻き込まれた件 ~魔法少女がアップを始めたようです~ |
| 著者・イラスト | ぶんころり(著)/カントク(イラスト) |
| レーベル・発行 | MF文庫J(新文芸の単行本)/KADOKAWA |
| 発売日 | 2021年1月25日 |
| 判型・価格 | B6判・328ページ/本体1,300円+税 |
| ISBN(紙) | 978-4-04-065932-9 |
| 評判 | 『このライトノベルがすごい!2022』単行本・ノベルズ部門で第1位 |
| ほかの広がり | コミカライズ(角川コミックス・エース)、TVアニメ第1期(2024年1月放送・SILVER LINK.制作) |
発売日や価格は、版元の公式ページでたしかめられる。電子特典の有無まで出ているので、かう前にみておくとまよわない。KADOKAWA公式の1巻商品ページ
この記事でもち帰れる三つのこと
- 1巻は全5章。猫の代わりに文鳥を買った男が、異世界貿易と国の異能管理組織の二足のわらじを履くまで
- 強い魔法を手にした佐々木が、その力をどう使い、どう使わないかという俺の考察
- 2度目に読むとき見てほしい場面と、読む前に気になりそうな疑問への答え
1巻のあらすじを全5章で(ネタバレあり)

第1章「異世界への誘い」
猫をかう同僚にあこがれた佐々木は、お金がなくて犬も猫もあきらめ、ペットショップで文鳥を一羽かう。人の言葉で「えらんで」と呼びかけてきた個体だ。連れ帰った晩、文鳥は「ピエルカルロ、異界の徒にして星の賢者」と名乗り、好物の神戸牛を要求する。
お金がないなら稼げばいいともちかけたピーちゃんは、魔力を分け与え、瞬間移動で異世界のヘルツ王国、エイトリアムの町へ佐々木を連れていく。佐々木は換金や税金の問題を挙げて慎重論を述べ、ピーちゃんも納得する。
翌日から呪文を手帳に書きとめて練習し、トイレで試した火の魔法で火災報知器を鳴らしてしまう。会社では同僚に独立をさそわれ、返事をのばす。異世界へは砂糖やチョコ、コピー用紙、ボールペンを背負って渡り、ハーマン商会の副店長マルクに売る。
昼食を探すうちに、濡れ衣で店を追われた料理人フレンチとであい、出資して店長にすえる。電卓も売れ、領主のミュラー子爵に謁見して品を納める縁もできる。覚えた魔法は十個に増え、異世界の暮らしが始まる。
第2章「異能力との遭遇」
取引先からの帰り道、佐々木は袋小路で氷柱をうつ男と、馬乗りにされたスーツの女性に出くわす。男の右うでは刃物に変わっていた。逃げかけた佐々木は思いとどまり、氷柱の魔法で男の肩をうつ。女性は氷柱を水に戻して痕跡を消し、拳銃を向けて所属を問う。
連れていかれたビルで、能力者は国の組織に属する決まりだと聞かされ、佐々木は能力を氷柱だけと少なめに申告する。女性は星崎、上司は阿久津課長、組織は内閣府超常現象対策局だった。自宅に仕掛けられた盗聴器をピーちゃんの助けですべて外すと、阿久津は「合格」と告げる。
初仕事は、約百人で元ボウリング場の非正規グループをおそう作戦だったが、わなだった。暴風で局員がつぎつぎ倒れるなか、佐々木は氷柱で星崎に水を送って壁を作る。和服の少女があらわれて星崎の動きを封じ、佐々木は中級の雷撃で少女の脚をうつ。
念力使いたちもうち、引き分けをもちかけて、つかまった課長を返してもらう。局員の大半が倒れる、大きな痛手だった。後日、佐々木は星崎が16歳だと知り、昇進と勧誘担当を告げられる。章末はお隣さん視点の短い挿話だ。
第3章「世界間貿易」
ミュラー子爵から戦への協力を頼まれた佐々木に、ピーちゃんは「十中八九負ける」と告げる。ピーちゃんの魔法なら覆せるが、そのときは佐々木の肩に乗る必要がある。子爵の依頼は、前線基地の設営と炊き出しのための物資を1か月以内にそろえることだった。
領内で買い集めれば経済が崩れかねない。そこで佐々木は、ほかの国で買った物資を瞬間移動で子爵領の倉庫へ入れる案をだす。倉庫は二重の造りにし、騎士が24時間見張り、出入りできるのは佐々木とピーちゃんだけにする。
仕入れ先はルンゲ共和国ニューモニアのケプラー商会。担当のヨーゼフは、佐々木たちをマーゲン帝国側の者とまちがえる。取引は成立し、佐々木の手もとには大きな利益が残る。
その後、佐々木は障壁魔法を覚え、勤め先をやめる手続きも済ませる。帰り道でホームレスの魔法少女にまた会い、ケーキをわたすが、少女は「魔法少女に関わると、みんな不幸になる」と言って姿を消す。
第4章「異世界の戦場」
次に異世界を訪ねると、副店長のマルクが憔悴していた。ミュラー子爵が討ち死にしたという。城にいた娘のエルザと執事は、跡目争いで毒を盛られたとして、ハーマン商会での保護を求める。佐々木はエルザをフレンチの店へ連れ出し、スープカレーで機嫌を直す。
エルザがなでたピーちゃんが思わず声をあげ、しゃべったのではと怪しまれて、正体がばれかける一幕もある。そこへ兄二人の訃報が届く。エルザはうろたえるが、マルクに説かれて、家を継ぐ覚悟をきめる。
町に戦火がせまるなか、佐々木はピーちゃんに飛行魔法を教わり、国境の平原へむかう。ピーちゃんは野営するマーゲン軍に光線の魔法を撃ち、地面に大穴をあける。
はんげきを受けて空中戦になり、佐々木は落下するが、水の魔法で着地する。森で、生きていた子爵と第二王子アドニスにであい、回復魔法で治療する。
オークに襲われた村へ向かうと、上位個体に子爵が蹴り飛ばされ、そこへ空からピーちゃんが降りてオークの首を刎ねる。倒れていた紫の肌の魔族は、血の魔女と呼ばれる者らしい。子爵は文鳥が星の賢者だと見抜き、ピーちゃんは「久しいな、ユリウスよ」と応じる。
第5章「伯爵と騎士」
ピーちゃんの瞬間移動で城へもどると、子爵と王子が生きて帰り、城は大さわぎになる。子爵は執事セバスチャンを問いつめ、ディートリッヒ伯爵家の次男を婿に迎える計画を暴く。死んだと伝えられていた二人の息子も姿を現し、執事は連行される。
宴の席でエルザは佐々木に礼を言い、以前の無礼を詫びる。翌日、佐々木はピーちゃんの魔法で首都アレストへ移り、王城の客間に泊まる。夜は侍女の姿の女性とボードゲームで遊ぶが、のちにその人が王妃だったとわかる。
王の前での謁見で、子爵は伯爵になり、佐々木も騎士の位をもらう。王子は第一王子とあらそっていることを明かし、自分のお金を動かす役という名目で、佐々木に自由に動ける立場をつくる。
佐々木は貴族の手続きを済ませ、飛行魔法を覚える。章末は、久しぶりに自宅へ戻る佐々木を待つ、お隣さんの視点でおわる。
この巻の登場人物をひと目でわかる早見表
ここでは、1巻でなまえが出て、物語を動かした人物だけを並べる。
| なまえ | 立場 | 1巻でしたこと |
|---|---|---|
| 佐々木 | 主人公。40歳手前の平社員 | 文鳥をかって魔法を授かり、異世界貿易と国の組織の仕事を両立させる |
| ピーちゃん | 文鳥の姿をした星の賢者 | 魔法を分け与え、戦場では光線で敵の野営地に大穴をあける |
| 星崎 | 内閣府超常現象対策局の能力者 | 水を操り、初仕事で佐々木と組む。16歳だと明かされる |
| 阿久津課長 | 対策局の課長 | 佐々木を採用し、盗聴器の件で「合格」を告げる |
| 二人静 | 局と敵対するグループの能力者。和服の少女の姿 | 初仕事の罠の場で、星崎の動きを封じる |
| ミュラー子爵 | ヘルツ王国エイトリアムの領主 | 物資の調達を頼み、戦場で生きのび、伯爵に昇る |
| エルザ | 子爵の娘。「盛り姫様」 | 跡目争いで保護され、家督を継ぐ決意をする |
| アドニス王子 | ヘルツ王国の第二王子 | 子爵と行動をともにし、佐々木に自由な立場を用意する |
| フレンチ | 料理人。佐々木が出資した店の店長 | 異世界の拠点となる店を切り盛りする |
| お隣さん | 佐々木の隣の部屋にすむ女子中学生 | 佐々木の差し入れを受け、章のおわりに視点人物として語る |
巻末の書きおろし・あとがきについて
本編のあとにも、読みどころがある。あとがきで作者のぶんころりは、この作品が、カクヨムのコンテストの受賞作として、MF文庫Jから書籍になった経緯を語る。物語の舞台が広く、文庫本に収めるのはむずかしかったため、大判サイズの新文芸にしたという。
サイズが大きいぶん、カントクのイラストもみごたえがあり、いちばんの見どころはそこだと書いている。つづく2巻は、ウェブに載った分に加えて、本編の半分ほどが書き下ろしで、3月25日の発売予定と告げられる。
電子特典つきの版には、短編「佐々木とペットショップ」が付く。暖房器具を探してペットショップに寄った佐々木と、店員の山田さんが、文鳥の近況を話す。
山田さんは「おとなしい子」と思っているが、佐々木の頭には魔法を連発するピーちゃんの姿がある。2人の会話のずれが笑える。カバー下にも書き下ろしがあり、キャラ紹介のページも付く。本をさいごまで開いた人だけが拾える、おまけの層が厚い。
SSが付くのは電子特典つきの版だ。どの版で読むかきめる前に、商品ページで形式をみておくといい。Amazonの1巻商品ページ
考察|強すぎる力を、佐々木はどう使わないか

「引き分け」と「倉庫」にみえる、力をなだめる段取り
1巻の核心は、強い力を手に入れたあとに、何をしないかの描きかたにある。俺はそう読んだ。根拠は三つある。
一つ目は、初めて異世界へわたる前のところだ。魔法という夢のような力を前に、佐々木が最初に口にするのは、換金のむずかしさと税務署の問題だった。ここで佐々木は、力をもった素人ではなく、段取りの人だときまる。ピーちゃんは神戸牛のために稼げと言いだした側なのに、現実の制約をさきに並べる佐々木を止めない。
二つ目は、対策局の初仕事だ。佐々木は中級の雷撃であいての脚を撃てるほどの力をもつ。それでも勝ちにいかず、「お互い引き分けということにしませんか」ともちかけて、捕らわれた課長を取り返す。あいてをたたきつぶすより、もち帰るものをさきにきめて動く。力があるからこそ、使う場所を絞っている。
三つ目は、第3章の兵糧あつめだ。ピーちゃんは「十中八九負ける」といい切り、魔法で覆すこともできると明かす。それでも佐々木は覆す道を選ばない。倉庫を二重の造りにし、騎士に24時間見張らせ、出入りできるのは二人だけにする案をだす。瞬間移動で運ぶ中身は同じでも、受け取る側が安心できる形に整えてある。力を隠すだけでなく、あいての不安を設計で消しているのだ。
たとえば札幌の雪かきだ。力まかせにスコップを振る人より、さきに雪を積む場所をきめてから掘り始める人のほうが、腰も傷めず早くおわる。積む場所をきめずに掘ると、あとで同じ山を二度運ぶことになる。佐々木のやり方は、この積む場所をさきにきめる人に近い。
対照的なのが、第4章でピーちゃんが撃つ光線だ。マーゲン軍の野営地に大穴があく場面は、力そのものが解き放たれる瞬間で、佐々木は遠くから見る側にいる。この落差があるから、佐々木の「使わない」判断が、読んだあとにも残る。
いっぽう、課長を取り戻す代わりに、多くの局員が倒れた。段取りで割り切った結末なのに、後味はおもい。作者がここをどう考えて書いたかは、公式には語られていない。ここから先は俺の見立てだが、軽い読みごこちの中にこのおもさを残したことで、物語が薄くならなかったと受け取った。
1巻だけでは見えなかった三つの謎
- 星の賢者が、数年前に貴族に闇討ちされたとされる事情。子爵は語るが、くわしい経緯は語られない
- ホームレスの魔法少女が、なぜ「関わると不幸になる」と言い残して消えるのか
- お隣さんの視点で描かれる挿話が、これからの展開にどうつながるのか
2度目に読むなら、ここをみてほしい
1巻を読みおえたあとで、もう一度ひらくなら、次の三か所をすすめる。
- 第1章の、初めて異世界へ渡る前のやりとり。換金や税金を気にする佐々木の慎重さが、あとの章の「段取り」の出発点になっている
- 第2章の、盗聴器をすべて外した直後の電話。阿久津が「合格」と告げる意味が、章のおわりまで読むとおもくなる
- 第5章の、廊下の肖像画の場面。賢者が少年の姿で描かれているとわかり、ピーちゃんの過去を想像させる
読む前に気になりそうなことに答える
Q. 1巻はどこまでの内容か
全5章で、第5章のおわりまでだ。佐々木が騎士の位を得て、飛行魔法を覚え、久しぶりに自宅へ戻るところで本編はおわる。
Q. 2巻はいつ出たのか
2021年3月25日に発売された。半分以上が書き下ろしで、くわしくは版元の公式ページにある。つづきを読む前に、あらすじと価格をたしかめられる。KADOKAWA公式の2巻商品ページ
Q. 電子特典のSSは紙の本でも読めるか
KADOKAWAの商品ページでは、電子特典つきの版として案内されている。紙の本にSSが付くかどうかは、俺はたしかめられていない。かう前に、商品ページで版ごとの内容をみてほしい。
Q. コミック版もあるのか
ある。角川コミックス・エースから、プレジ和尚の作画で出ていて、1巻は2021年6月25日の発売だ。原作のカントクは、キャラクター原案としてなまえが載っている。
読んだ感想
読みおえて最初に出た言葉は、段取りがいい、だった。俺は62歳で、主人公よりも二回り近く年上になる。十月の札幌は朝の冷えがきつくなり、ストーブをつける日が増えてきた。そんな季節に読むと、佐々木が魔法の力を手にして、まず税金と換金の心配をする姿が、妙に心にしみる。
大きな力を持てば、人は何かを叩きつぶしたくなるものだ。佐々木はそうならない。町内会の回覧板をきちんと回す人のように、決まりの中で、自分の持ち場を丁寧に回す。そのせいか、異世界でも局の仕事でも、読んでいて肩の力が抜ける。この安心感が、1巻のいちばんの魅力だ。
いちばん心にささったのは、第4章のおわり近く、ピーちゃんが子爵に正体を見抜かれる場面だ。「久しいな、ユリウスよ」の一言で、文鳥の姿をした賢者が、長い時間を生きてきた存在だとわかる。
かわいい小鳥と、遠い昔を背おった賢者。この二つの顔が一行で重なる。力が強いのにえらぶらない佐々木と並べると、ピーちゃんの孤独も見えてくる。
気になった点も書いておく。お隣さんの視点で描かれる挿話は、おもさを含んでいる。食事を与えられて暮らす少女の、依存に近い気持ちが前にでてくる。
佐々木は線を引いて距離を保つが、このおもさは、かるい異世界貿易の話とは別の読みごこちだ。好みは分かれるはずだ。かるく読みたい人には、この部分は少しおもい。
それでも、つづきは読みたくなる。2巻は半分以上が書き下ろしで、魔法少女との本格的な対決へ進むと予告されている。佐々木が段取りと力のあいだで、次はどんな判断をするのか。それをみとどけたい。
この記事は、俺が1巻を読んでまとめた読書メモと感想をもとに、AIアシスタントの支援で文章にし、俺が読み直して手を入れた。書誌と受賞歴は、KADOKAWAの公式ページで裏取りした。
1巻のつづきに手をのばすなら、半分以上が書き下ろしの2巻がいい。魔法少女との対決へすすむ巻なので、1巻を読みおえた勢いのまま読める。Amazonで『佐々木とピーちゃん』2巻を見る
参考にした公式ページと筆者の紹介
- 受賞歴をたしかめるなら、版元のお知らせが確実だ。KADOKAWA「このライトノベルがすごい!2022」の告知
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筆者:櫻田泰憲(札幌にすむ62歳)
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